振り返ってみると児童書や十代の頃に読んだ本でものの見方が形成された感があり、印象深かった本について一冊ずつ感想を書いていく連載です。
めくるとそこにはいったいなにがあったのか、一緒に考えたり、おのおの思い出してもらえたら嬉しいです。
印象に残る優等生な児童文学、と言えば若草物語です。私が愛読したのは赤と白のシンプルなチェックの装丁の、角川文庫から出ていたシリーズでした。若草物語、続 若草物語、第三若草物語、第四若草物語とあり、一番分厚い第四までいくと、読むのがしんどくなってくるのですが、四姉妹のまばゆい個性と、19世紀アメリカの生活の風景が新鮮で、折に触れて何周かしました。
振り返ってみると、若草物語は読み方が結構いろいろです。次女、作家志望のジョーの目線だと、家庭に入り女性として役割を全うすることへの疑問がわいたり、女性がしたいことを仕事にすることの難しさを実感したり、だと思うんですが、長女のメグや末っ子のエミリーに肩入れすると、夫を支える妻という立場がすばらしい、と思ったり、女性が女性らしくあることへの憧れをいだいたりしがちな気がします。(2020年に公開された「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」は、前者の目線で描かれたすばらしい映画でした。邦題が変ですが……。)
私はどうだったかというと確かに後者の目線で読んでいて、特に好きで何回も読んでいたのが続 若草物語の「家事の体験」という章でした。メグが、夫が働きにでてる間に家の中でカレンツ(黒スグリ)のジェリー(ジャム)を作って失敗したり、夫の給料を高い布に使い込んで後悔したりする話です。今にも甘酸っぱいにおいが漂ってきそうなジャムや、夫の給料を使い込んでしまう、うしろめたさの感情の描写が魅力的な一編で、もう一回読み直そうとしたところ、冒頭でウッとなってしまいました。
「多くの若き人妻のごとく、メグもその結婚生活を模範的な主婦になろうという決心のもとに始めたのであった。ジョンには家庭を天国だと思わせなくてはならない。彼はいつも妻の微笑で迎えられなくてはならぬ。毎日の食卓は豪華で、ボタンなど一つだってとれていてはならないのである。」
メグが模範的な主婦にはなりきれないことへの皮肉が含まれてはいるのですが、このまま飲み込むには少々厳しい文章です。こういう女性の時代もあったんだな、くらいに本からやや距離を置き、客観的に読めるのはやはり大人になってからでした。子供の頃は細部に没頭して読んでいたため、このような考え方も疑問に思わず、幸福な家庭ってすばらしい、とそのまま受け取っていた気がします。この物語は19世紀後半の話ですが、そのとき20世紀に生きていた私の母親も専業主婦で、家でジャムなどをつくるのが大好きだったことと重なっていると思います。自分の母親が結婚して子どもを産み、仕事をやめざるを得なかった過去があったことを、そのときの私は深く考えていませんでした。若草物語みたいな時代を伝える名作も、価値観としてどうか?と問われると角度によってはすごく微妙で、その本が子供たちにどういう影響を与えるかは届け方にもよるんだろうなあ……と思いました。

『若草物語』
マーチの4姉妹――長女のメグ、次女のジョー、三女のベス、末っ子のエミーの4人は、南北戦争のために出かけている父のるすを守る母の愛情につつまれて、貧しくても暖かい家庭で楽しく暮らしていたが……。平凡な家庭の1年間の姉妹の生活を、作者自身の少女時代の話をおりまぜて描いた名作。