第一回 人文・芸術・詩歌系 中小出版社のハローワーク ―――左右社の場合

左右社の営業部員が、エッセイを通して短歌を紹介する連載。会社でカメのかめ吉を飼っています。#カメ短

 人文・芸術・詩歌系 中小出版社のハローワーク ―――左右社の場合

左右社に入社したのは2021年の春のことだ。私が所属しているのは、事業編集部兼営業部。それはどういったことをする部署なんですか?と聞かれることがあるが、たしかに、事業編集部ってなんやねんと私自身も強く思っている(あ、会社への文句ではありません)。
 基本的には営業部扱いの部署で、本を「売る」ことにまつわる作業ならすべて担当する。そのかたわら、営業の業務を圧迫しない程度なら(年に2冊ほど)、好きに編集もやっていいことになっている。

 営業部での仕事に関して大まかに説明すると、編集者から新しく出る本の内容を共有してもらい、代表・編集者・営業部全員でマーケティングの方向性を決める会議をした後、帯文言決定の会議に参加し、書店からFAX注文を集めるための注文書をIllustrator(イラレ)で作って配信、書店営業に出て、メール営業や電話営業でも注文を集め、POPやパネルなどの販促物をまたイラレで作り、SNSを更新し……などなど。書籍の発送や請求書の作成など、地道なルーティーンワークも合間合間で日々行う。
 ひとくちに出版社勤務と言っても、業務内容は千差万別。作っている本の種類や会社の規模、取引形態、どの程度分業している会社なのか、編集に力を入れている会社なのか営業に力を入れている会社なのか、などによっても発生する業務は変わってくる。

 事業編集部兼営業部の部員は、現在3名。会社全体では年間50タイトル前後の刊行があり、新刊1タイトルにかならずひとりは営業部員が担当としてつくことになっているので、ひとりあたり年間10〜20タイトルの営業を受け持つこととなる。
 30代後半の営業部長Aと、30代前半の先輩Nと、20代後半の私。全員良い感じに好みや得意分野が分かれているので、本を「作る」編集の仕事をする際にも、個性が際立つ。
 Aはホラーなどのジャンル映画好きで、編集を担当した『サメ映画大全』は1.5万部を超えるヒットとなった(ちなみに、「1.5万部突破! 感謝(シャ)ーク!」というキャッチコピーでPOPやパネルを刷新した際のコピーの考案やデザインの作成も、もちろん営業部の仕事である)。Nは元教師で「〇〇の歴史」系に強い。左右社のブックデザインの多くを手がけてくださっている松田行正さんの著書『戦争とデザイン』『宗教とデザイン』『書物とデザイン』『かたちと人類』などはすべてNが編集担当である。私はというと、オタ活(おもにK-POP)の道中である程度韓国語を学習したので、韓国のエッセイや文学作品を編集したり、また、マイノリティやフェミニズム、政治への関心から、ライター・和田靜香さんの本も担当したりした。

 営業の担当を割り振る際にも、各々の好みや得意分野が尊重される場合が多いが、詩歌ジャンル(短歌・俳句・川柳・詩)の新刊営業のメイン担当者が私になったのは、完全に業務上の”成り行き”だった。新卒時は人文書に対する興味から左右社への応募に至ったので、面接で短歌のことを聞かれていたら、企業研究が足りないと判断されて落ちてしまっていたかもしれない。実を言うとそのくらい、短歌については何も知らなかった。それでもなんとか、全国100店舗以上で短歌を広めるための合同フェアをやってみたり、売り場を華やかに見せるオブジェというか神輿(?)

を手作りしたり、2025年にはなべとびすこさん第一歌集『デデバグ』の編集もさせていただいたりして、このジャンルを盛り上げるにはどうしたらいいか、自分なりに考えてきたつもりではある。

 左右社で働いてきたこの5年を振り返ってふとよぎったのは、2020年ごろから”短歌ブーム”と呼ばれてきた現象とともに、私はゼロから短歌を知りゼロから社会人をやってきたのだなという、非常に個人的で小さな実感だ。営業という立場で、短歌紹介の連載をという話になるなんて、それこそ5年前は全く想像していない未来だった。でも、「偶然の出会いをきっかけに長く付き合うことになったもの」って、人生でそうそう何度も出会えるわけではないような気がするから、とりあえずなんとかやってみようと思う。

 最後に、そんな自分に向けて、ピリリとする(けれども好きな)短歌を引用します。
知る? きみは少し先回りしたあと後ろ向きでそれを見ただけだ 『中澤系歌集 uta0001.txt』

 

 

著者紹介

神山樹乃
1997年生まれ。出版社左右社で、主に営業(たまに編集)を行う。韓国のヒップホップ好き。U-NEXTでヒップホップサバイバル「SHOW ME THE MONEY 12」をリアルタイム視聴中。そういえば短歌好きにラップ好きも多いですよね。

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