未来屋書店内での海外文学なるジャンルの確立に日々いそしんでいる、ただの海外文学好きによる連載です。
時々、書店員のお仕事もお送りします。書店員という現場目線のお話をお届けできれば幸いです。
第9回未来屋小説大賞 選考会その裏側「じゃあ、私のこの思いはどこに向ければいいのですか」
2025年12月24日、第9回 未来屋小説大賞が発表されました。
朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP 日本経済新聞出版)
おめでとうございます!
『イン・ザ・メガチャーチ』のとんでもなさは読んでいただければ絶対に伝わるはずだと確信しているため、今回は未来屋小説大賞の選考会のお話をさせていただきたいと思います。
実は未来屋書店内からも「大賞ってどうやって決めてるの?」と時々聞かれます。
そんな謎めく選考会についてお話させていただきます。
12月某日、海浜幕張にて選考会は行われました。
参加者は本社から3名、店舗勤務書店員の選考員7名による選考会です。
事前にノミネートされた作品をみなさん読み込み、毎年選考会に挑むのですが、そこには熱い思いのぶつかりあいがあったり、譲れない戦いがあったりと激しい論争になることもしばしば。
かくいう私は第1回から参加しており、過去「あなたは一回黙っててくれ」と本社のめっちゃ偉い人に言われた経験があったりします。
それくらい熱き場の選考会。
もちろん今回も熱い想いのぶつかりあいはありました。

ノミネート作を1冊1冊、それぞれが事前につけた採点表をもとに選考を行います。
みなさん本が大好きすぎるがゆえの思いのため、語りを聞いているうちに自分の中の選考が揺らぐことも結構あります。
自分にささった作品、評価点が高かった作品を1位にしたいと思うことは当然で、それがみんなバラバラだったとしても、大賞は決めなければなりません。
極端な話10名中、9名が同じ作品を選んだとしても1名が納得しなければ、何時間でも話しあうのです。
人に作品に真摯に公平に向き合うため、そして大賞作を自信を持ってお客さまにおすすめするために。
いまだ記憶に残っている、今回の選考会についてのある選考員の発言なのですが
「じゃあ、私のこの思いはどこに向ければいいのですか」
これは私に衝撃をあたえました。
本人が推し、評価を高くつけていた作品でも、他の選考員たちの評価は彼女の想定より高くなかった時に出た言葉です。
このような発言があった場合は、話し合い、意見交換し、熱い思いをぶつけあうのです。
そして、各々が抱く「思い」を昇華するのです。
選考会とは、もしかしたら思いのぶつけあいだけでなく、思いの分かち合いの場であり、共有の場であるのかもしれないと感じます。
私は毎年選考会が大好きです。
それは本が好きで好きで好きで好きで仕方ない人たちと、本について語りあえる場だからです。
この作品絶対に面白いと思っていても、みなさんの意見は違ったり、反対になるほどそういう読み方があったのかと発見もあったりします。
だから好きな本について語る場は本好きにとっては必要なのだと思います。
本好きたちが自信と責任をもって大賞を決める場なのです。
そうやって、泣いて笑って怒って、みんなで話あって決まった、第9回 未来屋小説大賞
『イン・ザ・メガチャーチ』を自信をもっておすすめします!
『イン・ザ・メガチャーチ』
沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」